村長ブログ

思ったことを書いてます

仮面の女と老婆 下

 

次の日

彼女は小さな池には行かなかった

 

しかし

命を絶ってはいなかった

 

彼女は、カエルとの約束を

すっかり忘れていた

 

 

彼女は、街にいた

 

自分の顔を見た彼女は、

居ても立ってもいられなくなり

街に出た

 

 

無論、仮面はつけていない

家を出てすぐに

近くの森に隠してきた

 

 

 

街に出たら

ゆく人来る人が、振り返り、噂をする

 

それが

恥ずかしいような、恐ろしいような

くすぐったいような、感じがして

心地よかった

 

その日は、1日街を歩き

仮面をして家に帰った

 

家に帰ってからも、興奮は治らなかった

母親に内緒で仮面を外し

 

皆が自分を

仮面の女だと知らないで噂をする

 

背徳感と開放感と少しの不安で

眠れなかった

 

次の日も

仮面を外し街に出た

 

今迄とは、打って変わって

街の男たちが話かけてきた

 

彼女は、たくさんの男たちと話

いい気分で家に帰った

 

次の日も

その次の日も、街に行き

男たちと話した

 

帰りの道すがら

仮面を取りに、森に行くと仮面が

無くなっていた

 

 

彼女は酷く焦り

夜まで仮面を探したが、見つからず

仮面を付けずに家に帰った

 

家に帰ると、母親は心配して

玄関で彼女を待っていた

 

仮面をしてない彼女を見た、刹那

安堵の表情をしていた母親が

泣きそうな顔をし、

そして

すぐに怒りの表情に変わった

 

彼女は、

仮面を外したことを酷く叱られた

 

母親は

今迄に見たことない程、怒っていた

 

しかし

今迄、何を言われても反抗しなかった彼女が

初めて母親に反抗したのだ

 

「お母さんだった嘘をついてたじゃない、

 私のが酷い顔だから仮面をつけたって」

 

母が黙っていると

 

彼女は続けた

 

「私の事が大嫌いなんでしょ、

 お母さんなんてもう知らない」

 

彼女は家を飛び出していた

 

行く先なら沢山あった

 

今日話した男のところだ

 

男の家に行き事情を話し

泊めてもらった

 

男は優しかった

女と一緒に母親を非難した

 

その日から

女は家に帰らなくなった

 

男の家を転々とした

男たちは皆、女に優しかった

なんでもしてくれた

 

食事をつくり、好きなものを買い、

女の言うことはなんでも聞いた

 

初めは感謝していた女だったが

 

だんだんと我儘になり男のすることに

文句を言うようになった

 

そうすると

あれだけ優しかった男たちは面倒くさそうな顔をして、女を追い出した

 

やがて街中すべての

男たちが女に声をかけなくなった

 

行く宛がなくなった女は

1人、森で泣いていた

 

泣いて泣いて泣きつくし

やがて涙も枯れてしまった

 

その時、女は

 

ふと、

カエルとの約束を思い出した

 

そう思うと

体はすでに動いていた

 

期待と不安と申し訳なさと

色々な感情が走った

 

そう思うと尚更、

体は急いでいた

 

 

走りづけると

やがて小さな池が見えてきた

 

足を止めゆっくり近づいていく

 

いつもカエルと話した場所が

見えてきた

 

 

駆け足でその場に行くと

そこには、カエルの姿はなかった

 

 

枯れたバラの花が

一輪置いてあった

 

 

 

 

彼女は小さな池で

今もカエルを待っている